若者に老人を蹂躙する権利はない [疑いの中で]

2019年 チェコ共和国

あらすじ

 イヴィタ・ガリア夫人は、かつては裕福な暮らしをしていたが、夫に先立たれ、今はアパートの一室で独り倹しい生活を送っていた。高齢の彼女は孤独で寂しかった。数年前、鍵屋に安全のために必要だとそそのかされて玄関のドアに鉄格子のような頑丈な鍵を取り付けたが、いつも渋くてなかなか解錠できないのも腹立たしかった。

 夫人にとって教会での聖具保管係としての務めだけが生き甲斐といっても過言ではなかった。しかしそれすらも新任の牧師にあっさりと奪われてしまった。お払い箱にされてしまい落胆して教会から出たガリアにジェンダと名乗る若い男が声をかけてきた。最初は不審に思い警戒する夫人であったが、彼が彼女の家の家系図を取り出し懐かしそうに思い出話をするのを聞いているうちに、ジェンダという名の永く会っていない甥がいたことを思い出した。

 しかし実はこの男はジェンダではなかった。俳優を目指す貧乏人で本名はダニエルといった。彼は生活に困窮していた。最後の望みだったオーディションもうまくやれず追い詰められていた。金の無心に実家に行ったところ、母親の同棲相手の男が持ってきていた家系図が目に入った。彼はそれを盗み出すと、甥を装って裕福そうな夫人に接近したのだった。

 三文芝居を打って夫人の家に上がり込んだダニエルだったが、予想に反して彼女の暮らしぶりは質素だった。それでもなんとか金目のものだけ騙し取ろうとするダニエルだったが、話の辻褄を合わせるのにしくじり、偽物であることがバレてしまった。やむをえず、金目のものだけ奪ってずらかろうとするが鉄格子のような頑丈な鍵が取り付けられているため玄関のドアを開けられなかった。ガリアから何とか夫人から鍵を奪おうとするが、夫人は窓の外に鍵を放り投げるという予想外の行動をとった。夫人の最後の抵抗だった。どんな手を使っても鉄格子のような頑丈な鍵はビクともしないし、格子がはめらた窓から脱出することもできなかった。

 こう着状態だった。結局、鍵屋に解錠してもらうしかないと観念したダニエルは、夫人に電話をかけさせた。鍵屋を待つ間、ダニエルの目にカーテンポールが映った。ダニエルはそのカーテンポールの先端を折り曲げ、鍵を引っ掛けて取り返すことに成功した。そして、ちょうどそのときもう一つ幸運が舞い込んできた。オーディションに合格したという電話連絡が入ったのだ。

 しかし、この2つの幸運がダニエルの運命を変えてしまった。このまま鍵屋に解錠させてこの場を去ったとしても、後で夫人に通報されてしまえば、ようやく芽生えた俳優への夢が潰えてしまうことは明らかだった。ダニエルの心の中の悪魔が囁いた。夫人を殺してしまえ。ダニエルはその囁きにしたがって夫人を刺し殺してしまった。後は鍵でドアを開けて逃亡すれば安泰だ。そう思ったダニエルに予期せぬ出来事が……。 

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
 夫人に鍵屋を呼ばせた電話から足がつかないようSIMカードをトイレに流した。仕上げに金目のものをポケットに入れて玄関を開けようとするが、元々渋かった鍵はコツを知らない彼には難物だった。力任せに回すと鍵が折れてしまった。密室に夫人の死体と自分自身を閉じ込めてしまったのだ。やがて鍵屋がやってくるだろう。彼はただただ呆然とするのだった。

感想

 独り暮らしの老人の孤独は、万国共通だと思いました。そして若者が、老いてシワだらけの年配者を自分よりも弱く劣っていると思いがちなのも。

 この話は、ドフトエスキーの罪と罰からインスピレーションを受けているではないでしょうか。かの名作では、資産家の老婆アリョーナの資産を奪ったとしても、それを活かして人々のためになることを多くすれば罪にならないという妄想を抱いた青年ラスコーリニコフがアリョーナを斧で殺害しました。そのラスコーリニコフと本作のダニエルの発想は酷似していると思いました(罪と罰はそこから続くラスコーリニコフの苦悩が主題であり、本作とはフォーカスポイントが全く異なりますが。)

 本作については、チェコのサイトでもあまり情報がありませんでした。結局監督の名前も母国語表記しかわからず。評価もあまりよくないようですが、私は結構いい作品だと思いました。

 時々、若者の集団が見ず知らずの老人の家に押し入り強盗殺人を犯すというニュースを見聞きします。若者が自分よりも身体機能が衰えている老人を見下すのは生物的本能として仕方がないとしても、人間である以上、他人の思い出や尊厳を蹂躙する権利はないということくらい判ってほしいものです。

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主演のjirina bohdalovaは若い時から活躍する大女優です

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