盲愛は、自らだけでなく、その相手の人生をも壊してしまう [パリ、テキサス]

1984年 西ドイツ・フランス

あらすじ

 赤い帽子を被りスーツ姿でテキサスの荒野を歩く男が、どこかも分からぬ小さな集落で倒れ、診療所に運ばれた。男は失語症のように医師の問いかけにも沈黙したままだった。困った医師は、男の所持品から名刺を見つけ電話をかけた。医師からの電話を受けたのは彼の弟ウォルトだった。そして彼の名はトラヴィス。4年間行方不明で既に死んだと思われていた。

 ウォルトは仕事を休んでロスからテキサスに駆けつけた。しかしトラヴィスはウォルトにもなかなか口を開こうとしなかったが、そのうちぽつりぽつり話し始めた。彼は「パリ」に行きたがっていた。それはフランスのパリではなく、昔通信販売で購入したテキサスの空き地だった。そこで母親と父親が初めて愛し合った場所だと聞いて、そこから自分の人生が始まったから購入したということらしかった。トラヴィスとの距離感を測りかねながらもウォルトは彼をロスの自宅へ連れ帰った。

 ウォルトと妻のアンは、トラヴィスとその妻ジェーンが行方をくらませてからの4年間、トラヴィス達の息子であるハンターを我が子のように育てていた。

 トラヴィスは8歳になったハンターと再会した。当時まだ幼かったハンターに父親の記憶はなかった。しかし何日か経つとトラヴィスとハンターの距離は少しずつ縮まっていった。

 ある夜、アンはトラヴィスに、しばらくの間ジェーンと電話で連絡をとっていたこと、ジェーンの頼みで開設したハンター名義の銀行口座に今でもヒューストンの銀行から毎月5日に送金があることを打ち明けた。

 それを聞いたトラヴィスは、ハンターとともに車でテキサスに向かって旅立った。

 数日間の父子の二人旅の後、ヒューストンの銀行に到着した。その日はちょうど毎月入金がある5日でジェーンが送金のために銀行に来るはずだった。待ち続けたトラヴィス達は遂にジェーンを発見し、その後を追った。

 ジェーンが向かった先は、マジックミラーを挟んで個室の客に女性がヌードを見せる”覗き部屋”だった。ジェーンはそこで働いていたのだ。トラヴィスは客を装いマジックミラー越しにジェーンと再会を果たすが、彼女の方はミラーの反対側にいるのがトラヴィスとは気づくはずもなかった。店の外で会いたいと誘うと、彼女は店に禁止されていると言って引っ込んでしまった。

 店から出てバーへ入ったトラヴィスは、ハンターにパリの自分の土地の写真を見せ、そこに3人でいずれ住もうと思っていたことを打ち明けた。

 トラヴィスはホテルの部屋でテープレコーダーにハンターへのメッセージを残すと、ハンターを残し独りジェーンの店に向かった。「父親だと思って欲しかったがやはり無理だ、母さんと一緒に生きていけ」それがトラヴィスからハンターへの最後のメッセージだった。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
 トラヴィスは再び客としてミラー越しにジェーンと言葉を交わした。トラヴィスは、ある男と女の話を始めた。話が進むうちにジェーンはそれが彼女とトラヴィスとのことだと察した。彼女が照明を消すとミラーの向こうにいるトラヴィスの顔が見えた。トラヴィスもジェーンも共にお互いのことをまだ愛していた。ジェーンはトラヴィスに行かないでほしいと懇願するが、彼はハンターのいるホテルだけ教え、立ち去った。
 その夜、ジェーンはホテルに向かいハンターと再会を果たした。その様子をホテルの外の駐車場から見ていたトラヴィスは車に乗り込むとどこかへと走り去った。

感想

 ヴィム・ヴェンダースの代表作の一つであり、ロードムービーの傑作です。私が本作を最初に鑑賞したのは大学生の時だったのですが、その頃の私にはまだ理解するのが難しかったですね。特に最後のトラヴィスがジェーンに長回しで語るシーンに感情移入できるかどうかがこの作品に対する感想を左右すると思います。

 一人の女性を溺愛しすぎたために自分を見失ったばかりか、愛する女性すら堕落させてしまった男の深い深い自責の念を描いた物語です。

 旅とともに物語が展開するというよりも、最後のパートで一気に空白の4年間の意味がトラヴィス本人の語りによって明かされるという構成になっています。ですから前半と後半で趣が異なる作品という印象を持つかもしれません。荒野を男が歩く最初のシーンをモチーフに撮影を開始し、撮影中に後半のシナリオを作ったとのことなので、そのせいかも知れません。若干力技という感はありますが、哀愁あるギターの旋律と相まって、雰囲気のある作品に仕上がっています。

 テキサス州パリスは、

パリスは、アメリカ合衆国テキサス州北東部に位置する都市。ダラス・フォートワースの北東約160km、オクラホマ州との州境になっているレッド川の南約25kmに位置する。人口は25,171人。パリスに郡庁を置くラマー郡1郡のみから成る小都市圏は49,793人の人口を抱えている。

Wikipedia

という小さな町のようです。Googleマップ観光してみたところ、市民会館的な建物の敷地にカウボーイハットを被ったエッフェル塔のレプリカがありました(少し物悲しい)。

赤いカウボーイハットを被ったエッフェル塔レプリカ

 全体的に空が大きく感じる町並みで、小学校なども徒歩での通学は難しそうです。

 トラヴィスが通信販売(!)で手にしたのは、もっと郊外の荒野の土地だと思われます。日本で言うところの原野商法のようなものと大差なさそうです。それでもその地は、夫としても父としてもまだ未熟だったトラヴィスが、彼なりにジェーンやハンターを幸せにしたいという思いを込めて手にした特別な場所だったのだと思うと、切ない気持ちになります。

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