若者は皆、別々の道を歩まなければならないことにやがて気づく [ウィズネイルと僕]

1987年 イギリス

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あらすじ

 1969年ロンドン・カムデンタウンで役者を目指していた”僕”は同じく役者志望のウィズネイルと同居していた。ウィズネイルは役者としてうだつがあがらないのを社会のせいにして、いつも酒とドラッグに溺れる自堕落な生活を送っていた。そういう僕も泣かず飛ばずだったけれど。

 ウィズネイルには気分転換が必要だと思った僕は、彼の叔父のモンティさんが持っている別荘を借りてしばらくのんびりしようと誘った。ウィズネイルは最初は乗り気でなかったけれども渋々承知した。

 別荘を借りにウィズネイルと一緒にモンティ叔父さんの家に行ったが、彼が変人だってことにすぐに気づいた。ウィズネイルがどんな手を使ったのかわからなかったが、首尾よく別荘を借りることに成功したので、さっさと退散した。

 あいにくの大雨の中、ようやく辿り着いた別荘は想像とは違って随分オンボロだった。暖をとろうにも薪もないし、食べ物も無かった。すっかり機嫌を損ねてしまったウィズネイルとバーに行った。そこへジェイクという危険な匂いがする密猟者がやってきたので食べ物を分けて欲しいと頼んだけれど断られてしまった。機嫌を損ねたウィズネイルは、止めておけばいいのにジェイクに向かって悪態をつき始めた。彼は本当は気が弱いのに、すぐにキレて悪態を吐く悪い癖があるのだ。

 真夜中に物音がすると言って怯えた様子のウィズネイルが僕のベッドに入ってきた。彼はジェイクが復讐に来たのだと決めつけていた。やがて足音は屋内に侵入してきた。ドアが開いた。姿を現したのはなんとモンティ叔父さんだった。

 僕たちは選択の余地なく、モンティ叔父さんと一緒に別荘で過ごす羽目になった。彼がゲイで僕のことを狙っているのはその素振りから明らかだった。ウィズネイルもそのことに気づいているのに助けてくれるどころか面白がって高みの見物を決め込んでいた。つくづく薄情な男だ。やがて恐れていたことが起こった。泥酔したウィズネイルが眠り込んでしまった夜、モンティ叔父さんが迫ってきたのだ。そのとき僕は驚きの事実を知った。なんとウィズネイルは別荘を借りるために、モンティ叔父さんに僕がゲイだと吹き込んでいたのだ。追い詰められた僕は咄嗟にウィズネイルのことを愛していると嘘を吐いた。その言葉を聞いたモンティ叔父さんは、すぐに僕から手を引くと夜明け前に別荘から姿を消していた。モンティ叔父さんは変人だけど、繊細で優しい心の持ち主だった。そんな彼を傷心させたウィズネイルを責めたが、悪びれた様子はなかった。つくづく呆れた男だ。

 散々な旅行を終えた僕のところへ朗報が届いた。なんと、主役に抜擢されたのだ。遂に役者として新たな一歩を踏み出すときがきた。僕はカムデンタウンを去ることにした。別れの日、ウィズネイルが未練がましく雨の降るなか駅まで送ってくれた。僕が出発した後も、ウィズネイルは降り続く雨の中一人ぽつねんと立ち尽くしていた。

感想

 青春時代は、どうなるかわからない将来への希望と不安の交錯、今まで見えなかった社会の闇への好奇心、親の庇護の下から離れた開放感などが一気に押し寄せる、人生でもっとも刺激的で多感な時期です。ほとんどの若者はこの時期にそういった試行錯誤を繰り返して自分の波長を社会に同調させていくものですが、中にはそうする必要性を感じない人も”たまにいます”。若いうちは、それがその人の個性で魅力的に見えますが、歳を重ねるほどに「変な人」という烙印を押されるようになります。

 ウィズネイルはその”たまにいる”類の若者です。

 同じ部類と思っていた”僕”が俳優としての第一歩を踏み出したとき、ウィズネイルはそれまで感じたことがない孤独を感じたかもしれません。しかし、彼の孤独は始まったばかりでしょう。同世代が社会の中心的存在となっていくほどにますます孤立していくことは明白です。しかしどこで転機が訪れるか分からないのが芸術の世界だと自分に言い聞かせ、彼は孤独を耐えようとするでしょう。数十年後、彼は若き日の自分をどんな気持ちで振り返るのでしょうか。

 ラストのウィズネイルの雨の中の独白シーンが印象的でした。何か有名な台本の引用なのかもしれませんが、残念ながら無学で分かりませんでした。観ている間は「なんだこれ」感でいっぱいでしたが、後に不思議な余韻が残る印象的な作品です。

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