ケン・マイルズという不遇のレーサーがル・マンで放った短くも鮮烈な光 [フォードvsフェラーリ]

2019年 アメリカ

あらすじ

 1959年ルマンで、イギリスのアストンマーチンチームの車に乗るアメリカ人のキャロル・シェルビーが見事に優勝し、一躍母国のヒーローとなった。シェルビーは心臓に持病を抱えていたこともあり、その後レーサーを引退し、自動車販売業に乗り出していた。

 ちょうどその頃、アメリカを代表する自動車メーカーであるフォード社は深刻な業績不振に陥っていた。社長のフォード2世に対し、販売部門の責任者だったアイアコッカが提案したリバイバルプランはレース参戦だった。アイアコッカは手っ取り早く成果を挙げるため、当時ルマンで5年で4回優勝していたフェラーリの買収を目論んだが、エンツォ・フェラーリから拒否された。エンツォに侮辱されたと感じたフォード2世は、自社開発のレーシングマシンでフェラーリを打ち負かすよう命じた。

 アイアコッカはフォードのレースプロジェクトの責任者にシェルビーを抜擢した。そしてそのシェルビーはル・マン24までの限られた時間でマシンを開発するためには、レーサーとして非凡な才能を持っていたケン・マイルズの力が不可欠だと考え、レースドライバーとして出場することを前提にスカウトした。しかしケンには問題があった。独善的で協調性のない性格がフォードの経営陣に不評だったのだ。結局ケンはフォードのル・マン初戦に参加を認められず、フォードチームも全車リタイアの散々な結果に終わった。

 次年度のル・マンで雪辱を晴らすためにはケンの力が不可欠だというシェルビーの必死の訴えが功を奏し、晴れてケンはレギュラードライバーとして参戦を認められた。そして、ついにまたル・マン24時間の季節がやってきた。宿敵フェラーリとの激戦を制し、ケンのチームは圧倒的なリードを築いた。このまま優勝かと思われたとき、フォードの経営陣からフォード車3台で並んでゴールせよというオーダーが伝えられた。しかしケンはスローダウンするどころかオーダーを無視するようにファステストラップを重ねた。しかしそのときケンの胸中にある思いが去来した。そしてケンはアクセルを緩めるのだった。それが意外な結末を手繰り寄せることも知らずに……。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
 後方からやってきたマクラーレンが駆るフォード車がケンをゴール前で抜き去り優勝した。
 みすみす優勝を逃したケンは落胆したが、すぐに立ち直り次の車の構想について熱く語り出した。
 その後間もないテスト走行中、ケンはブレーキトラブルによる事故で命を落とした。

感想・コメント

 基本的に実話に基づく話。映画の尺の中で、そつなくプロットをまとめるあたりは流石アメリカ映画で、最初から最後まで一気に観せます。レースの勝利は金で買えるというフォード経営陣の思い上がりに辟易しながらも、自分の子供のように大切にGT40を仕上げていくシェルビーやケン達の情熱に胸が熱くなります。昔のレーシングカーは、今よりもトラクションがかかっていないために、ちょっとした弾みで吹っ飛んでいくような危うさがありましたが、そういった雰囲気もよく再現できています。

 実は「フォードvsフェラーリ」というほどメーカー間の争いがメインとなっておらず、どちらかといえば「フォード経営陣vsシェルビーとケン」といった内容になっています。「フェラーリ」の名前がタイトルにあるだけで注目を集める効果は絶大でしょうが、つられて観たフェラーリファンはガッカリするかも知れませんね。

 内容としては、レース中心ではなく何かを成し遂げようとする人々の熱いドラマなので、カーレースなんて興味ないという方にもお勧めですし、観たらきっとカーレースを見る目が少し変わると思います。

 昔のカーレース界は本当に死と隣り合わせで、F1でも毎週のように誰かが命を落とす事故が発生していた時代もありました。そういった世界に生きるドライバーたちも“速さのためなら死を恐れない“という勇敢さを誇示しているところがありました。その後、車体側もコース側の安全対策が進められ、悲惨な事故が起こるのも稀になった現代のカーレース界でドライバーに求められるのは、勇敢さよりも正確なテクニックとなっており、まさに隔世の感があります。最近のレースしか知らない方が本作を観たらびっくりするでしょうね。

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。皆さんの感想も教えてください!
 もしよろしければ、twitterアカウント(@TBasco_JP)をフォローしてください。ツイートで更新をお知らせしています。

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする