他人の人生に影響を与えることはかくも罪深いものか [パーフェクトワールド]

1993年 アメリカ

あらすじ

 1963年テキサス州。ブッチ・ヘインズは囚人仲間のテリーと刑務所から脱走した。仲間といっても脱走を共謀しただけでブッチはテリーのことを認めていたわけではなかった。

 首尾よく脱走した2人は住宅地で逃走用の車を調達しようとした。腹をすかせたテリーがいつの間にか民家に押し入り騒ぎを起こしてしまった。止むなくその家に住んでいたフィリップ少年を人質にして逃走する羽目になってしまった。

 テキサス州警察署。レッド署長は知事からブッチ達が起こした事件を早期解決するようハッパをかけられていた。そしてその知事の指示で州立刑務所の犯罪学者であるサリーが捜査に同行することになった。現場のたたき上げのレッドにとって女性の学者であるサリーは無用の長物にしか思えなかった。しかし知事が寄越したサリーを置き去りにするわけにもいかず、捜査車両に乗せて出発した。

 逃走中の車中でもブッチとテリーはギクシャクしたままだった。ブッチがテリーとフィリップに留守番させてタバコを買いに行っている間に、テリーにちょっかいを出されたフィリップが車から飛び出して畑に逃げ出した。ブッチが戻ってくると車の中には誰もいなかった。畑に向かうとそこにいたテリーをタバコと一緒に買ったばかりの銃で撃ち殺した。

 ブッチはフィリップを車に乗せると再び走り出した。

 捜査車両でブッチ達を追うレッドは、彼らが店に立ち寄ったという情報を得ていた。サリーは検問を増やした方がいいと進言するがレッドに無視された。見下されたことを憤ったサリーは自分はこの事件の関係者の中で2番目にIQが高いと叫んだ。それを聞いたレッドが誰が1番なのか尋ねると、彼女の答えは「ブッチ」だった。

 ブッチとフィリップは身の上話をしながら走り続けていた。ブッチは自分の父親が好きだったフォードに乗り換えると言い出し、たまたま見かけた農場に停まっていたフォードを、フィリップに手伝わせて盗んだ。一緒の時間を過ごすにつれて、フィリップのブッチに対する恐怖は消えうせ、次第に親しみさえ感じるようになっていた。

 街に着いたブッチはフィリップの服を買うことにした。店で買い物をしているうちに地元警察のパトカーがブッチの乗っていたフォードを発見した。店から出たブッチはフォードに乗って逃走した。

 そのことはすぐにレッドに知らされた。驚いたのは逃げようと思えば逃げられたフィリップがそのままブッチと一緒に逃走するという選択をしたという事実だった。ちょうどそのときレッド達の捜査車両とブッチのフォードが一本道ですれ違った。気付いたレッドがUターンして追跡するよう命じたが、フォードのスピードについていけずにすんでのところで逃してしまった。

 ブッチはアラスカに向かって車を走らせていた。そこに行ったことはなく、父親から送られてきた絵葉書でした見たことがないとフィリップに話した。途中食料を調達するために、ブッチはフィリップに1日遅れのハロウィンだと言って民家で食べ物をもらってくるよう促すが、フィリップはエホバだから駄目だと母親から言い付けられていると従うのをためらった。しかしブッチから「お前に頼んでいるんだ」と後押しされると、うれしそうに田舎の民家のドアをたたいた。ずっとやってみたかったハロウィンができた上に、たくさんの食料をもらって上機嫌なフィリップだったが、その背後でブッチが住民に向かって銃を向けて脅していたことは知る由もなかった。

 その後も2人の逃避行は続いた。

 サリーは、ブッチが少年院送りになった時の裁判でレッドが第三者として証言していたことを記録を読んで知っていた。サリーはブッチが車泥棒で4年も刑務所送りになったのか、父親がいたから保護観察にもできたはずだとレッドに問いかけた。その疑問にレッドは、ブッチの父親は手当たり次第に暴力を振るう根っからの悪だった、だからブッチを父親から遠ざけるために、少年院送りにするのが正しいと判事に説得したのだと打ち明けた。

 ブッチ達がトウモロコシ畑で野宿をしているところに、農夫がきて朝まで泊まっていくよう誘われた。翌朝、その農夫の家で楽しいひととき過ごすブッチ達だったが、農夫が子供に暴力を振るうのを見てブッチの態度が豹変した。タイミング悪くラジオからブッチ達を警察が追っているというニュースが流れてきた。ブッチが農夫一家を殺害しようとしたそのとき一発の銃声が鳴り響いた。いつの間にかブッチの銃を奪ったフィリップがブッチの脇腹を撃ったのだ。

 フィリップは泣きながら外に走り出すと銃を井戸の中に捨て、フォードから鍵を抜き取って原っぱに向かって逃げた。本当は殺すつもりはなかったと弁解しながらブッチはその後を追いかけた。ブッチの銃槍はひどく、足取りもおぼつかなかった。原っぱの真ん中の大樹の木陰に腰をおろし、懐から絵葉書を取り出すと「アラスカには父親が住んでいるんだ」とその樹の上に逃げていたフィリップに話しかけた。フィリップが下りてきて「ごめんね」と謝った。

 原っぱの向こうには大挙としてパトカーがやってきていた。到着したヘリからはフィリップの母親が降りてきた。ブッチはフィリップに母親の元へ行けと背中を押した。フィリップは途中まで行くが戻ってきてブッチの手を取ると、一緒に行こうと促した。フィリップが井戸に銃を投げ捨ててしまったため、ブッチは丸腰だったが、それを知らないFBI捜査官はブッチにライフルの照準を合わせていた。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
 フィリップに引かれて歩いてくるブッチのところへ、レッドが近寄っていった。
 「どこかで会ったことがあるか」と尋ねるブッチに、レッドは「気のせいだろう」と答えた。ブッチが懐から絵葉書を取り出そうとした次の瞬間銃声が鳴り響いた。

感想

 クリント・イーストウッド監督作品らしい安定の作りでした。クリント・イーストウッドは多作の部類に入ると思いますが、どれもクオリティが高いし、いつまでも衰えない創作意欲にも脱帽です。

 本作は、素直に見ると脱獄犯と人質になった少年との間に芽生えた心のつながりを描く感動作ですが、フィリップ少年は「ストックホルム症候群」だったのではないかという少し意地悪な見方もできます。「ストックホルム症候群」とは、

 精神医学用語の一つ。誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象。1973年、ストックホルムの銀行で2人組の強盗が4人の人質をとって立てこもる事件が発生した。131時間に及ぶ監禁状況のなかで、人質は次第に犯人らに共感し、犯人にかわって警察に銃を向けるなどの行動をとるようになった。また、人質のなかには、解放後に犯人をかばう証言を行う者や犯人に恋愛感情を抱く者まで現れた。この事件をきっかけに、こうした極限状況で起こる一連の心理的な動きと行動が、ストックホルム症候群と名づけられた。

コトバンクより

というものですね。詳しいことは分かりませんが、犯人に対する感情移入ではなく、犯人に従順でないと殺されてしまうという自己防衛本能がなす反応なのかなぁと私は理解してます。まあドラマとしては、そんな小難しいことを考えない方が楽しめますし、私もそっちに賛成です。

 この作品にはレッド署長の心理的葛藤というもう一つのテーマがあります。レッド署長は、ブッチのために良かれと思って悪人の父親から引き離すべく若き日の彼を犯罪者に仕立て上げたわけですが、その選択が結果的に正しかったのか間違っていたのか、ずっと独り自問自答しているわけです。おそらくブッチが絵葉書を肌身離さず持っていたことを知ったら、さらに苦悶することになるでしょう。他人の人生に干渉した結果、その人の人生の行き先が変わってしまったとき結果責任を背負うことができるのか、本作はレアケースにしても、近しい人の結婚や進学などに口出しするなんてこともしかり、私としてはこちらの方が本作が投げかける重要な問いかけだと思いました。

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