自分勝手でいい加減おまけに無責任、だけど魅力がある、罪深き男 [アメリカ,家族のいる風景(Don’t come knocking)]

2005年 アメリカ・ドイツ

コンテンツ

あらすじ

 西部劇映画の人気俳優ハワードが撮影現場から遁走した。荒野のロケ地から撮影用の馬で走り続け、レンタカー、バスを乗り継ぎ向かった先は母親の家だった。道すがらATMで全預金を引き出した後、カードと携帯電話をゴミ箱に捨ててしまった。ハワードは酒やクスリ、女性問題と数々のスキャンダルを起こしていたが、そんな自分に嫌気がさしてしまい、何もかも投げ出してしまったのだ。地元に帰ってきても、みんなが自分のことを嗅ぎ回るパパラッチに思え、ハワードの気が休まらなかった。

 しばらくぶりに再会した母親から、ずいぶん昔のことになるけれどモンタナでの撮影後ハワードの子供を宿したという女性から何回か電話があったという事実を知らされた。ハワードは自分に子供はいないと否定したが、何か思い出したように母親が彼の記事を集めて作っていたスクラップブックを開いた。そして、そこにあった女性の写真を手がかりに、亡き父親が乗っていた車に乗り込むとモンタナの町ビュートに向けて出発した。

 途中、ホテルに泊まったハワードは、またしても酒に溺れ乱痴気騒ぎをしてしまった。翌日ハワードは激しい自己嫌悪に襲われるのだった。

 小さな町ビュートに着いたハワードは、若き日の彼が一夜を過ごし、母親に電話をかけてきた女性を見つけ、彼女の後を追ってライブハウスに入った。ドリーンという名のその女性は、突然現れたハワードを怪訝そうに一瞥し、目の前で演奏しているのが息子のアールだと告げると不愉快そうに立ち去ってしまった。ライブの中休みを狙ってハワードはアールに自分が父親だと打ち明けたが、突然の告白に動揺したアールに激しく拒絶された。

 アールに受け入れられないままハワードは再びドリーンの前に姿を現した。そして彼女とこの町で一緒に暮らしたいと告白した。ドリーンは、あなたは自分の罪の意識から逃れたくてここに来ただけだ、だけどそのせいでアールの人生が変わってしまった、あなたは卑怯だとハワードを詰った。そして「ひょっとしたら哀れな女が地球のどこかにいて、自分を憐れんで救ってくれるって思っているんだろうけど、私はそんなのは嫌、私はそんな女じゃない」と言い捨て、去っていった。

 虚しさに苛まれるハワードの前に、撮影現場に戻れという裁判所の命令書を携えたサターが現れた。ハワードは大人しくそれに従うのだった。

感想

 「パリ・テキサス」と同じ監督ヴィム・ベンダース、脚本サム・シェパードの作品。だからテイストがどことなく似てるかもしれません。

 ハワードという男は、自己中心的でいい加減おまけに無責任、だけど魅力があるという非常に罪深いヤツです。いや、自分に魅力があることを自覚しているから傍若無人に振る舞う権利があると考えていると言うべきなのかもしれません。
 そんな彼も相応に歳をとってきて、実は一人ぼっちな自分に気付き、虚しさと寂寥感が込み上げてきたのだと思います。そんなところに母親から自分に子供がいると知らされて、いてもたってもいられず会いに行ってしまい、そればかりか、相手の気持ちも考えずに唐突に「君の父親だよ」と名乗り出てしまったりするあたりがさすがです。

 この作品は「ひょっとしたら哀れな女が地球のどこかにいて、自分を憐れんで救ってくれるって思っているんだろうけど、私はそんなのは嫌、私はそんな女じゃない」というドリーンの台詞が全てだと私は思います。実はこの台詞の後、ドリーンはハワードに激しいキスをして立ち去るんですが、この辺りは人によって受け取り方が違うでしょうね。皆さんはどう感じるでしょうか。

 この映画は映像美も見どころです。ヴェンダースの写真集「Written in the west」(ただし私が言っているのは初版。最近Revisited版があるようですが、画面で見る限り加工されているようで、銀塩特有の粒子感や自然な色彩ではないように見えるのが残念。)のように、なんともいえずくすんだ色彩で描かれています。多分、アメリカ人の目には映らないアメリカの景色だと思います。

 一つだけ残念なのが「スカイ」という女性の位置付けが曖昧なところ。彼女もまたハワードが一夜の営みで出来た娘なのですが、ストーリー展開のためにハワード、ドリーン、アールを結びつける都合の良い役割に止まっている点です。だから、あらすじには出てこなくとも、話が成立しちゃうわけです。

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