不可解なほど建設的な一家心中の謎 [セブンス・コンチネント]

1989年 オーストリア

(注)今回のあらすじはラストまでありますので、知りたくない方は鑑賞してから御覧ください。

第1部 1987年

 午前6時。アラームとともに夫ゲオルグ、妻アンナ、娘のエヴァの3人家族の朝が始まった。

 身支度を整え、朝食を終えるとマイカーに乗り合って学校と職場に向かった。

 それぞれが職場や学校での時間を終えると、帰宅し、夕食のテーブルを囲んだ。

 それは規則正しく、つつましい家族の姿そのものだった。

第2部 1988年

 午前6時。アラームとともに夫ゲオルグ、妻アンナ、娘のエヴァの3人家族の朝が始まった……1年前と何も変わらない1日が過ぎていった。

第3部 1989年

 ゲオルグの実家に帰省した一家は帰路についた。

 翌日、ゲオルグは両親に手紙を書いた。今日仕事を辞め、一家で新たな地へ旅立つと……。

 アンナは食材を、ゲオルグは大工道具を買い込んだ。それから二人は一緒に銀行へ行き預金を全額引き出した。入用ならローンを利用してはという銀行員に勧められたが、アンナは「オーストラリアに移住するの」と聴かなかった。

 夜、3人は最後の晩餐を楽しんだ。

 翌朝、家族全員でおもむろに洋服や本から家具に至るまであらゆるものを引き裂き、破壊し始めた。終いにはお金まで破り、トイレに流してしまった。

 家中のものを破壊し尽くした後、3人は唯一壊れていないテレビをぼんやりと眺めた。

 そして、アンナは娘のエヴァに薬を飲ませた。エヴァが事切れると、次はアンナが同じように服薬自殺した。

 ゲオルグは壁に

  エヴァ1月11日22時

  アンナ1月12日2時

  ゲオルグ?

と書き付けると自らも命を絶った。

 アンナの弟からの通報で警察が家に踏み込み、一家の遺体は2月17日に発見された。遺書はあったが、両親は警察に捜査するよう求めた。しかし、事件の真相が明らかになることはなかった。

感想

 一家心中の新聞報道からインスピレーションを得た作品とのことです。

 タイトルの「第7大陸」は、現在の地球上に存在しない大陸です(調べてみたら「ジーランディア」と呼ばれ、ニュージーランド付近の海底にあるそうです)。ただし本作では「未踏の新世界」の比喩で用いられているのだと思われます。

 洗車のシーンや夕食のシーンを長尺で描く手法が多用されています。一見無意味で冗長に感じるかも知れませんが、日常生活において潜在的な記憶として残っているのは、特に関心もなく、ただ網膜に映っていただけの景色~例えば洗車機の動く様子~だったりするものなので、変わらず続く日常を描くのに効果的な演出だと私は思いました。

 特に目立ったトラブルもなく、傍目には仲睦まじく暮らす一家が何故心中を図ったのか、この作品ではその確信に迫ることはありません。自殺するために、周到に準備しただけでなく、自分達の存在を消し去るかのように財産や持ち物を徹底的に破壊し破棄する。ここまで建設的な心中に駆り立てたものはなんだったのか、答えを得ることはできないことが判っていながら、その真相を探りたくなる作品です。

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2件のフィードバック

  1. こんばんは。
    ずいぶん前に観ましたがよく分からない映画でした。でもこうやってレビューされるともう一度観たくなりますね。

  2.  コメントありがとうございます。
     「なんでそんなことをしたのか全然分からない」という事件を、余計な推測や推理を交えず、よく分からない感を正直に描写した作品なので、「よく分からない」という感想は当を得ていると思います。という、このコメントもよく分からないですね。すみません(笑)。

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