不都合な真実を知るよりも心地よい幻想に包まれたい、はず。 [グッバイ、レーニン!]

2002年 ドイツ

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あらすじ

 1978年8月26日、東ドイツ人のS.イエーンが初めて宇宙へ行く姿を、まだ幼かったアレックスはテレビで観て感動し祖国を誇りに思った。ちょうどその頃、アレックスの父は西ドイツの女と駆け落ちして行方をくらませた。彼の母はショックで入院したが、やがて退院すると東ドイツの社会主義浸透に心血を注ぎ始め、ついには祖国功労勲章まで与えられた。

 それから11年後の1989年10月、アレックスは宇宙飛行士の夢を諦めテレビ修理工として働いていた。その頃東ドイツは凋落の一途を辿っており、国民の間では東西ドイツ統一を望む声が高まっていた。アレックスも母に内緒でそのデモ行進に参加していたが、偶然にもその姿を目撃されてしまった。

 息子が反体制的デモに参加していることにショックを受けた母はその場で気絶してしまい、そのまま昏睡状態になってしまった。その間にベルリンの壁が崩壊し、東ドイツは瞬く間に西ドイツに融合された。テレビ修理会社も解体され、アレックスは西ドイツの衛星放送会社に転職した。

 入院から約9ヶ月後、母が奇跡的に意識を取り戻した。しかし短期記憶喪失で自分がなぜ倒れたのかは覚えていなかった。医師から「次に強いショックを受けたら命の保証はない」と言われたアレックスは焦った。母が愛した東ドイツはもはや存在しなかったからだ。
 アレックスは母を退院させると、寝室に閉じ込め、以前と変わらず東ドイツが繁栄しているように見せかけようとした。既にスーパーで販売されていない東ドイツ製の食品は、空き瓶を見つけて中身をそれに詰め替え、テレビ番組は会社の同僚に協力してもらって偽のニュース番組を制作し、ビデオで流した。

寝室の窓から資本主義の権化であるコカコーラの横断幕が見えてしまい焦るアレックス

 やがて体力が回復した母が一人戸外に出てしまった。そこで目撃したのは、西側の文化に覆い尽くされた街並みとヘリで運搬されるレーニン像だった。母の内に芽生えた疑念を打ち消すために、アレックスは西ドイツから殺到する難民を東ドイツが寛容にも受け入れることにしたというニュースをでっち上げた。

ヘリで撤去されるレーニン像を目撃してしまうアレックスの母

 ある日、アレックスは母から衝撃の事実を打ち明けられた。実は父はアレックス達を捨てたのではなく、家族で西ドイツに亡命するために一足先に西ドイツに渡ったこと、しかし母は亡命が失敗して子供達を失うことを恐れて実行できなかったこと、父からはその後も手紙が送られてきたことを。母はずっと、そして今も父を愛していたのだ。

 その夜、母の容態が急変した。アレックスは母のために父の居所を探し出し、夫婦再会を実現させた。そして余命わずかな母への最後の孝行として、東ドイツが西ドイツの国民を受け入れる形で東西ドイツが統一されたという嘘のニュースを制作して病床の母に見せた。

数日後、アレックスの母は幻の東ドイツを信じたまま、この世を去った。

感想

 今は昔となった東西ドイツの統一をテーマにした話です。誰にとっても衝撃的だったあの歴史的転機を知らない人がいたら、という着想がユニークです。これまでもタイムトラベルしたり、長く昏睡していて目覚めたら全くの別世界だったという作品は少なからずありますが、短時間で周囲の世界が一変したこの史実をテーマにすることは当事者であるドイツ人ならではです。本作はベルリンの壁崩壊とその後起きた出来事を伝えるドキュメント的な一面もあります。

 体制崩壊により耐え難い喪失感に苛まれた東ドイツ人は多数いたことでしょう。イデオロギーの転換によって職業だけでなく思想信条すらも否定されたのですから、その絶望は想像するに難くありません。

 アレックスの荒唐無稽な工作が結実し、彼の母はそうした喪失感や絶望を知ることなくこの世を去る、まさに「嘘も方便」と言いたくなる作品です。

 前半はやや抑揚が抑え気味ですが中盤~ラストにかけて充実していくので、最初のパートをやや退屈に感じても最後まで鑑賞することをお勧めします。

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