世界王者?兄貴がなれっていうならなってやるぜ [ザ・ファイター]
2010年 アメリカ
あらすじ
1993年マサチューセッツ州ローウェル
ディッキーとミッキーは異父兄弟だ。ディッキーは子供の頃からボクシングが強く、ミッキーはそんな兄に憧れていた。ディッキーの自慢はかつて王座戦でチャンプのシュガーレイレナードをダウンしたことだった。結局試合には負けたが。
ディッキーはすでに引退し、兄に続いてボクサーになったミッキーのトレーナーをしていた。引退後もボクシングにかける情熱は健在だったが、ボクシング以外の彼は27回も逮捕歴がある自堕落なジャンキーだった。
ミッキーは憂鬱だった。目下3連敗中で勝ち星のない彼はボクサーとしての限界を感じ、続けるかどうか決めかねていた。しかし、ディッキーやマネジャーをしている母の期待を裏切るわけにもいかず、悶々としながら次の試合に向けてトレーニングしていた。ミッキーはバーで働いていたシャーリーンに恋心を抱いていた。思い切って声をかけた。次の試合が終わったら一緒に映画を観に行ってくれることになった。
ラスベガスでのミッキーの試合は散々だった。直前になって対戦相手が欠場になり、母親とディッキーに言われるがまま代役と対戦した。どうせ準備不足で楽勝だと言われたのに、目の前にいる相手は階級が違う上に完璧に仕上がっていた。案の定、叩きのめされてしまった。落胆するミッキーに、あるプロモーターから素人同然の母親やディッキーと一緒にやっていたらせっかくの才能が潰れてしまう、1年間生活の面倒を見てやるからうちに来いと誘いがあった。
家に戻ってからもミッキーはこの先どうするか悩んでいた。楽しみにしていたはずのシャーリーンとのデートもどうでもよくなってしまった。そんな彼を救ったのはシャーリーンだった。彼女はミッキーに、ボクサーとして成功したければ思い切って家族と離れ、そのプロモーターの元で練習に集中すべきだとアドバイスした。
悩んだ末にミッキーは家族に想いを打ち明けたが、予想どおり認めてもらえなかった。金のことを心配せずに練習に打ち込みたいというミッキーの希望を聞いたディッキーは、叶えてやると言って家を飛び出した。しかしディッキーのやったことと言えば、犯罪まがいの集金だった。結局逮捕されてしまい、また収監されてしまった。
結局ミッキーはプロモーターの誘いを断り、地元で再起を図ることにした。ただし家族とは袂を分つという条件で支援を名乗り出てくれたパトロンの元で練習に励んだ。そして一戦ずつ着実に勝利を重ね、ついに世界王座に挑戦する権利を獲得した。
刑期を終えて出所したばかりのディッキーも弟の快挙に喜びジムに駆けつけた。彼は当然ミッキーのトレーナーとしてタイトル戦に帯同できると思っていた。しかし、それが叶わぬことだと知り落胆して去って行った。母親はミッキーを薄情者となじった。
ミッキーの心中は複雑だった。恋人のシャーリーンや自分を支援してくれる周囲の人たちがなんと言おうとディッキーは彼にとってヒーローであり、ボクシングの師匠だった。ミッキーの選んだ選択肢は。そして世界戦の結果は。
感想
実話をベースにした作品です。エンドロールでミッキーとディッキー本人が笑顔で登場する。そういう距離感で制作したこともあって、美談になるよう多分に脚色しているようにも感じますが、重要なのはミッキーが成し遂げたことなので、そこに至るまでの過程を多少デコレーションすることを、いちいち目くじらを立てるのは野暮というものです。
ディッキーはシュガー・レイ・レナードをダウンしたときに自己実現欲求を満たしてしまったために、さらに上を目指すことを止めて享楽にふけるようになってしまいました。「才能があるのにもったいない」とも思えるかもしれませんが、人間は皆、自己実現欲求を満たせれば周囲の評価など無関係に幸福感を得ることができるものですから、彼自身が過去のひと時を人生のピークだと感じ、それを何度も噛み締めることで幸せな気分になれるなら、それはそれでいいと思います。例えば高校野球で甲子園に行った人が大人になってからもずっと飲むたびに思い出話をして満足するのと一緒ですね。聞かされる方はお腹いっぱいですけどね。
一方のミッキーは周りに気を遣いすぎる性格です。生来そういう性格の人は自分を後回しにすることに普段はストレスも感じないものですが、やはり「これだけは自分の意志を優先したい」ということもあるでしょう。優柔不断で周囲に翻弄されていた彼が、夢のために自己主張できたというところが本作のターニングポイントです。
少し小難しいことを言ってしまいましたが、この作品には特に哲学的なメッセージはなく、ただ、田舎町の男が成し遂げた偉業を感動的に描いたドラマ程度に考えて気軽に楽しむのがいいと思いますし、楽しめる作品に仕上がっています。
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