一つの過ちが時を超え静かに波紋のように広がる [湿地]

2006年 アイスランド

あらすじ

 アイスランド遺伝子研究所の研究員オルンは幼い娘を珍しい脳疾患で亡くした。彼の悲しみは深く、同時になぜ娘がそのような病に侵されたのか疑問を抱いた。

 舞台は変わり、ある粗末な部屋。老年の男の死体が見つかった。被害者の名前はホルブルグ。頭部を鈍器で殴られていた。エーレンデュル刑事は机の引き出しの裏側に貼り付けられていた墓の写真を見つけた。刑事の部下達の調べでその墓は4歳でこの世を去ったウイドルという名の少女であることがわかった。彼女の母コルブルンはすでにこの世を去っていた。そして父は誰かわからなかった。

 刑事はコルブルンの姉エーリンの家を訪問した。しかしエーリンは警察を嫌悪していて取り付く島もなく、元警官のルーナルに聞けばいいと捨て台詞を吐いて追い払った。ルーナルは倹しい生活を送る老人だった。彼によれば、コルブルンは自分から3人組の男に言い寄っておきながら、後になってレイプされたと告発しようとした恥晒しらしい。しかし、刑事が改めてエーリンのところへ話を聞きに行くと、彼女はルーナルがコルブルンをレイプした犯人グループを庇うために証拠を隠滅したのだとルーナルの話を否定した。さらに彼女は驚くべき証言をした。コルブルンをレイプしたのはホルブルグだというのだ。

 当時ホルブルグがつるんでいた仲間は、エットリデとグレータルという名前だった。エットリデは刑務所で服役していたが、もう一人のグレータルの行方は掴めなかった。

 そのときホルブルンの検死結果が知らされた。彼は珍しい脳疾患にかかっていた。そしてウイドルも同じ疾患で命を失っていた。刑事は両者の関係を調べることにした。

 一方、刑事の部下達は、ホルブルンたちのレイプの被害者となった女性が他にもいないか聞き込みをしていた。かなり昔の話であり、聞き込みの対象となった女性は皆高齢だった。その中にオルン(冒頭に登場した男性。ウイドルの父親)の母親もいた。彼女は刑事に、誰にも明かしていなかったが、実は自分もホルブルンのレイプ被害者だったと涙ながらに告白した。

 事件の前、オルンは自分の娘の命を奪った疾患が遺伝性であること、そしてその遺伝子を自分も持っていること、研究所のデータから同じ遺伝子をウイドルという女の子も持っていたことを調べていた。そして、ついに自分の母親から真実を聞き出し、諸悪の根源を突き止めていた。それがホルブルンだったのだ。オルンにとってホルブルンは汚れた遺伝子の主だった。彼さえいなければよかったのだ。そう確信したオルンがホルブルンの居場所を突き止め、殺めたのだった。

 刑事達は、オルンの犯行であることを突き止めた。彼を凶行に駆り立てたホルブルンのレイプ事件に、隠された真実があったことが明らかになった。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
 オルンの母親はホルブルンにレイプされたのではなく、船乗りの夫がいない寂しさを紛らわせるために彼と不倫していたのだ。そして、その結果生まれたのがオルンだったのだ。

感想

 初めのうちは、時系列の組み替えに気づかず、やや入り込めませんでしたが、最終的には楽しめました。あらすじからは省きましたが、エーレンデュル刑事が自堕落な娘に悩まされるなど、登場人物の人間像が立体的に描かれている点も良かったです。少々失礼な言い方ですが、アイスランドの質素で寒々しい景色もこの物語の物悲しさを際立たせています。ただ、タイトルでもある「湿地」、確かに物語の舞台なので間違いではないのですが、最後の最後まであまりストーリーとは直接関係がありません(関係がないように描かれています)。この点は少し残念です。それにしてもアイスランドの人々の名前は馴染みがないせいか覚えづらいですね。完全にこちらの都合ですが。

 ダークな雰囲気で複雑なストーリーが特徴の北欧ミステリーが楽しめますので、是非ご覧ください。

 アイスランドという国は馴染みが薄いですが、北海道と四国を合わせたくらいの面積の島国です。位置的にはすごく寒そうな場所にありますが、実際にはメキシコ湾暖流のおかげで冬でもそんなに寒くないそうです(-5℃〜0℃)。金融立国として発展を遂げていましたが2008年のリーマンショックで経済が大ダメージを受けました。その頃は国家存亡の危機くらいの大騒ぎだったように報じられていた記憶がありますが、その後どうなったか調べたところ、通貨暴落により水産物の輸出などが伸びたことで、奇跡的なV字回復を果たし、今では世界有数の物価の高い国になっているとのことです(参考:Guide to Iceland)。人口35万人の小国ですが、なかなか侮れない国です。日本もなんとか沈みゆく国から復活できないものでしょうか。

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