彼だけが、それが自殺行為だと思わなかった。 [INTO THE WILD]

2007年 アメリカ

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あらすじ

 クリスは名門エモリ大学を優秀な成績で卒業し、ハーバードのロースクールに行けるだけの頭脳を持つ秀才だった。

 両親はクリスに期待を寄せていたが、クリスそして妹のカリーンは両親を尊敬できなかった。何故なら2人が小さい頃から夫婦喧嘩が絶えなかったことに加え、自分が不倫の結果できた子供だったのに、それを隠すために過去を偽っていたからだ。

 NASAのエンジニアだった父は独立してコンサルタント会社を設立し成功したが、クリスには両親が物質主義と拝金主義に汚れた存在にしか思えなかった。

 卒業後のことを両親に尋ねられたクリスは言葉を濁した。そして全財産を慈善団体に寄付すると一言も告げずに大学時代に住んでいたアパートを引き払い行方をくらませた。両親がクリスの異変に気づいたのは数ヶ月経ってからだった。

 クリスは中古の車を走らせていた。

 今までの自分を捨て去るかのように「アレクザンダー・スーパートランプ」という偽名を名乗った。やがて車が壊れてしまい、移動手段はヒッチハイクになった。

 道中、クリスはヒッピーのカップルや農場経営者、独り暮らしの老人等と知り合い交流を深めた。

 クリスには目的地があった。アラスカの荒野だ。金や欲に汚れた社会から離れ、ただ自然の中で自給自足の日々を送りたい、それが夢だった。

 出会った人々から別れを惜しまれながら、クリスはアラスカの大地に向かった。そして荒野をひたすら進むと、打ち捨てられたバスを見つけた。バスのエンジンルームは空だったが、中を覗くとストーブやマットレスといった生活の痕跡が残されていた。クリスは「不思議なバス」と名付け、そこを生活の拠点とすることにした。

 冬の間は獲物を捕らえることもできず空腹に悩まされたが、雪解けと共にクリスの荒野での生活は軌道に乗り始め、獲物をとり、好きな読書に耽る日々を過ごした。9週間が経った頃、トルストイの本から本当の幸せは人とのつながりの中で芽生えるものであることを学び、街に戻ることにした。

 しかし来たときは小さかったはずの河が、雪解けで増水し渡ることができない大河になっていた。帰路を絶たれたクリスは、止むを得ず「不思議なバス」に一旦戻った。

 それからクリスは孤独と恐怖から精神に変調を来し始めた。彼は植物を食べる前に食用かどうかきちんと本で調べるようにしていた。それにもかかわらず、ある日酷い体調不良に見舞われた。見るべきページを誤って、食べてはいけない植物を食べてしまったのだ。その植物には毒性があり治療しないと飢餓で死亡すると書かれていた。

 不思議なバスでの生活が100日間続いた頃、クリスは限界まで衰弱していた。

 最期を悟ったクリスは、車中で横たわり空を見つめた。

 そして、家に戻り両親と抱き合う自分を想像しながら絶命するのだった。

感想

 クリスは環境保護を訴える活動家ではありません。

 金や物は要らないと言いながら、それは「過剰には要らない」という意味で、(本人はそのつもりかも知れませんが)アーミッシュの様に文明社会を真っ向から否定しているわけではありません。

 クリスはアラスカの荒野に行けば「真実」を見出すことができるはずだと思い込んでいました。彼が「真実」を求めるきっかけとなったのは両親に対する嫌悪感でした。その嫌悪感が両親が良しとする価値観の否定、すなわち自分が育ってきた環境の否定につながったのだと私は思いました。

 皮肉なのはクリスが両親を「赦す」べきだと悟ったときに、自然の無情によって元の世界に戻る術を失ってしまったことでした。

 世間知らずのお坊ちゃんが、身の程をわきまえずに”冒険ごっこ”なんてしたからバチが当たった。残酷ですがそうとも言えます。しかしお坊ちゃんだろうかそうでなかろうが、まだ観ぬ世界への好奇心で背伸びをしてしまうのは誰もが通る道です。才能と知性に恵まれた有能なこの若者が社会に戻ることができたとしたら、どのような人生を歩んだのか想像せずにはいられません。

 ちなみに本作公開後「不思議なバス」には、多くの人が訪れたそうです。そして、数多くの死者や遭難者が出たことから、現在は撤去されたとのことです(Wikipedia)。やはり過酷な場所だったんですね。

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