アメリカどころじゃない。南アフリカを今も覆う人種差別の深い闇 [ケープタウン]

2013年 フランス・南アフリカ共和国合作

コンテンツ

あらすじ

 ケープタウンの植物園で、素手で殴殺された若い白人女性の死体が見つかった。

 黒人刑事アリ、白人刑事ダンそしてブライアンが捜査を担当することになった。

 被害者の名はニコールといい、ラグビーの元選手の娘だった。彼女が所持していた会員証はジュリスから借りたものだった。

 その頃、街では貧しい子どもたちが次々と姿を消すという噂が立っていたが、治安の悪い街ではそれすらも些末な出来事として公には問題視されていなかった。

 アリ達はニコールのクレジットカードの使用履歴から、あるクラブに通っていたことを突き止めた。そこのダンサーによれば、事件のあった日、彼女はスタンという男と遊んでいたらしい。それらの証言からアリ達は”ニコールとスタンは海岸で出会った後、意気投合して二人で植物園に行き、そこでスタンに殺害された”と推理した。アリ達がスタンの行方を追うため手分けして海岸で聞き込みをしていたところ、アリとダンがスタンのグループに襲われた。

 ブライアンが駆けつけたときには、ときすでに遅くダンは惨殺されていた。スタン達が屯していた浜辺の小屋の中に新品の銃や暗視装置があったことから、彼らはただのチンピラではなく何らかの警備をしていたと思われた。アリ達がその小屋にあったクスリを押収して分析に回したところ、未知の成分が含まれていて、大量に摂取すると自制心を失い凶暴化することが分かった。

 ダンの代わりにアリ達のチームに加わったジャネットの調査により、海岸のすぐ近くに無人のまま放置されている怪しい屋敷があることを突き止めた。ブライアンがその家屋に侵入すると、そこにも例のクスリの包が落ちていた。

 そしてまた若い女性の死体が海岸で発見された。爪には抵抗したときにかきむしったと思われる犯人の毛髪が、そして腹にはズールー族の歌が刻まれていた。それと時を同じくして警察署にはスタンの頭部が送られてきた。

 警察署長は、スタンのDNAと被害者に残されたDNAが一致したことから、いずれもスタンの犯行だったと声明を出した。アリ達は文字を書けなかったスタンが犯人のはずがないと訴えたが、署長は捜査の続行を禁じた。何か大きな圧力が感じられた。

 命令に背いて密かに調べを進めたジャネットが、例の屋敷を所有するペーパーカンパニーの代表者がオパーマンという有名な分子科学者であることを突き止めた。彼はかつて黒人だけを殺すクスリを開発していた人物だったが、すでにそのことを委員会で証言し恩赦を受けていた。

 次第に全貌が明らかになった。オパーマンは無罪放免となった後、クスリの研究を再開し貧しい黒人の子どもたちを実験台にしていたこと、海岸の屋敷が研究の拠点でスタン達はそれを警護していたこと、そのクスリを国外の製薬会社に販売する計画まで企てていたこと、一方で捜査のきっかけとなったニコールの事件はそれら一連のこととは無関係の偶発的なものだったこと……。

 真実に近づいたアリは、オパーマンの指図より母親を殺害された。アリはその復讐のため単身、ナミビアの荒野の農場に潜伏しているオパーマン達のところへ向かった。後を追って駆けつけたブライアンの制止を振り切り、アリは独り農場へ突入したのだった。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
ブライアンも加わり、農場で激しい銃撃戦が繰り広げられた。
アリは農場から逃れたオパーマンの後を追った。一昼夜砂漠の中で追跡劇が続いたが、やがて力尽きたオパーマンにアリが追いついた。アリは馬乗りになってオパーマンを殴り続けた。
ブライアンがヘリで彼らを発見したとき、オパーマンだけでなくアリも絶命していた。

感想

 作中、白人が過去に黒人に対して行った犯罪を自白して恩赦を得たという下りが出てくるのですが、1995~2000年に設置された南アフリカ真実和解委員会のことだと思います(分からなかったので、後で調べました)。結局、そのとき罪に問われなかった白人が以前よりも裕福になって再び悪事に手を染めるようになり、その被害者は相変わらず貧困に苦しむ黒人たちという皮肉な結果になったようです。真実和解委員会後も、アパルトヘイトの悪しき構図は残っている、それが本作のメッセージだと私は理解しました。真実和解委員会は、深刻な人権問題があった国や地域で設置されることがある組織体ですが、主な目的が真実の究明にあるため、証言者に対して恩赦が約束される場合がある点が問題として指摘されます。未来志向で過去を清算するといえば聞こえはいいですが、やったもの勝ちになってしまいますからね。

 随分荒唐無稽な話だと思って観ていたのですが、後で調べたところ80年代のアパルトヘイト体制下の南アフリカで、政府によって設立されたプロジェクトコーストという計画があり、その一分野に、黒人出生率を下げるための避妊法の研究があったとのことなので、あながちフィクションとも言えないところが空恐ろしいです。歴史上、そういう事実があると「ワクチン陰謀論説」なんかも絶対にないとは言えないという気持ちも理解できます。

 なお、最近の南アフリカはネルソン・マンデラ元大統領の掲げた他人種共生の理念が揺らぎ、白人排斥派の政党が躍進し、白人側にも分離独立の機運が高まっているようで、いまなお不安定な情勢にあるようです(2021年現在)。やはり、被害者側の怨念は根深く「水で流して終わり」とはいかないんでしょうね。

 そういった重苦しいテーマがベースとなっている本作ですが、アクションシーンや潜入シーンなどもあって退屈しません。

 あまり知らない国の映画を観ると発見があるので、私は好きです。俳優も知らない人だといいのですが、この映画は有名どころが多数出演しています。と言いながら、オーランド・ブルームのことは指輪物語とかパイレーツ・オブ・カリビアンでしか知らなかったので、最後のエンドロールを見るまでブライアン役が彼だったことに気づきませんでしたが。

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Basco