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老人だからって善人ってわけじゃない [運び屋]

2018年 アメリカ

あらすじ

 イリノイ州ピリモアのアールにとって園芸はまさに天職だった。新しい品種の美しい花々は品評会で受賞し称賛を浴びていた。もちろん代償はあった。仕事にかまけて、ないがしろにした妻や娘からは見捨てられてしまった。それでも仕事が順調なうちは良かったが、ネット販売全盛とともに先細りとなってしまい、とうとう全財産を銀行に差し押さえられてしまった。そうしてアールは何もかも失ったが、妻のメアリーも娘もそんな彼に今更救いの手を差し伸べるつもりはなかった。

 唯一残ったオンボロトラックを見た男がアールにブツの運び屋をやらないかと誘ってきた。アールに選択肢があるはずもなかった。年老いたアールがブツを運んでいるとは警察も疑いもしなかった。アールはただ気ままに車を指定された場所まで走らせるだけで大金を手にした。たった2回の仕事でアールはたちまち小金持ちになり羽振りもよくなった。差し押さえられた自宅を取り戻し、車も新調した。火事で焼けてしまった退役軍人クラブの修理代も請け負ったし、孫娘の結婚パーティーの費用も出した。

 アールは段々と大きな仕事を任されるようになり、それにつれて報酬もどんどん増えていった。カルテルのボスはアールにもっと本格的な仕事をやらせてみるよう部下のフリオに命じた。ついでに万一に備えフリオに監視させることも忘れなかった。アールは渋々命令に従ってアールのお目付役として彼の仕事に同行した。アールは指示されたルートを守らなかったり、モーテルにコールガールを連れ込んだりと好き放題やっていた。フリオはボスにアールを外すべきだと進言したが、ボスは認めなかった。

 その頃、DEA(麻薬捜査局)の捜査官ベイツはボスから結果を出すようプレッシャーをかけられていた。ベイツは抱き込んだカルテルの構成員から入手した運搬記録からアールの存在を知った。成果を求められていたDEAはカルテルを一斉摘発することにした。アールもその対象になっておりベイツが彼を追っていた。

 当の本人はそんなことも知らずいつもどおり気楽に車を走らせていた。しかし途中投宿したモーテルであちこち嗅ぎ回っているベイツに気づき警戒することにした。

 翌朝、モーテルの食堂にいたベイツの隣にアールが座った。結婚記念日を忘れたことを悔やむベイツに、アールは家族を大切にするよう助言して去った。アールの顔を知らなかったベイツはそれが本人だと知る由もなかった。

 運転中のアールに孫から電話がかかってきた。メアリーの余命が2、3日もないと宣告されたというのだ。仕事の途中でルートを外れることはタブーだったが、彼はメアリーのところへ車を走らせた。偶然にもそれによってベイツの追跡の手を逃れることになった。

 アールは死の床に横たわるメアリーを看取ることができた。「あなたは最愛で最悪の悩みの種。いてくれるだけでいい」と言い残し、メアリーは安らかに息を引き取った。葬儀を終えたアールはカルテルのボスにやりかけの仕事に戻るよう命令された。アールは無気力なまま車を走らせた。その道の先にアールの電話を傍受していベイツが待ち構えていた。ベイツはアールの顔を見て驚きを隠さなかった。アールは大人しく逮捕された。

 裁判が始まった。そこでアールは誰もが予想しなかった行動に出るのだった。

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裁判で、アールは弁護権を放棄して潔く自分の有罪を認め、傍聴席で娘たちが驚き心配する中、そのまま収監された。アールは刑務所でもまた、花の栽培に精を出すのだった。

感想・コメント 

 本作は2014年のニューヨークタイムズの記事がベースとなっているそうです。クリント・イーストウッドが演じるとなんとなく善人のような先入観を持ってしまいますが、本作の主人公アールは利己主義、自惚れ屋、偽善者の代名詞のようなどうしようもない人間です。本作は、そんな彼が札束の力で人々の好意を得ようとする、そんなどうしようもない男の老年期の一コマを描いた作品です。なんだか酷い言い草だと反感を持つ方もいるかも知れませんが、実は私、アールのことが嫌いではありません。

 確かに彼は家族を顧みず自己中心的な人生を送ってきたかもしれませんが、それは決して悪意があったわけでなく、ひとえに仕事に夢中になりすぎて周りが見えなくなっていたためでした。そのように彼は彼なりに頑張って精一杯生きてきたはずだったのに、最後に全てを失ってしまったわけです。その失意から立ち直るために、(方向性の良し悪しは別として)開き直って今までと違う生き方をしようとした彼の心情を私はなんとなく理解できるのです。まあ、こんなことをアールの娘に言ったらえらい剣幕で抗議されそうですけどね。近しい人からすれば、彼は冒頭に書いたような人物としか思えないでしょうし、それはそれで理解できます。立場変われば、ですね。

 なお、本作の原題「The Mule」は元々ラバのことですが、スラングで麻薬の運び屋という意味もあります。案外ひねりのないストレートな題名でした。

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