幾重もの理不尽にも屈さない若者の美学 [オマールの壁]

2013年 パレスチナ

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あらすじ

 パレスチナ人のオマールはパン職人として働く真面目な若者だ。

幼なじみのタレク、アムジャド、そして何よりも愛するタレクの妹ナディアに会うために、危険を冒して分離壁を乗り越えることが日課となっていた。オマールの夢はナディアと結婚することだった。そのためにお金も貯めていた。

 ある日オマールは、リーダー格のタレクの指揮のもとアムジャドとともに検問所のイスラエル兵を狙撃した。作戦は成功したがオマールはイスラエルの秘密警察に捕まってしまった。彼は捜査官のラミに主犯格であるタレクを引き渡すよう取引を持ちかけられた。

 オマールは取引に応じるふりをして釈放されるが、仲間からだけでなくナディアからも裏切り者と疑われるようになってしまった。

 オマールは汚名を雪ぐべく、タレクとアムジャドと共謀し、秘密警察を誘き出して襲撃しようとするが、その計画は何故か筒抜けになっていた。まさかと思いながらアムジャドに詰め寄ると、彼は秘密警察のスパイであることを認めた。オマールは裏切った理由を聞いて衝撃を受けた。秘密警察にアムジャドがナディアを妊娠させてしまったことを暴露すると脅されていたのだ。

 オマールの説得で、アムジャドはタレクに正直に告白することにしたが、彼の告白に激怒したタレクと揉み合っているうちに銃の誤射でタレクを殺してしまった。

 タレクの死体を渡したオマール達はラミに見逃してもらうことになった。自由の身になったオマールはナディアの家族を説得してアムジャドとナディアの結婚を認めさせると、新婚生活の足しにするよう自分の貯金をアムジャドに渡した

 それから2年後。無関係になったはずのラミが職場に現れ、再び秘密警察に協力するよう強いられた。協力しなければアムジャドとナディアの生活を破壊すると脅されたオマールは、あのとき以来関係を絶っていたアムジャドの家に向かった。家にいたナディアと話すうちに、オマールはナディアが結婚前に妊娠していなかったことを知った。ナディアはオマールのことを裏切り者だと疑ったために彼に嫌われたのだと思い、絶望してアムジャドと結婚したのだった。オマールは横恋慕のためにアムジャドに1度ならず2度も騙されていたことを知ってショックを受けた。

 オマールはラミに電話をし、協力する代わりに銃を貸してもらいたいと頼んだ。何に使うのか聞かれてもオマールは答えなかった。ラミと待ち合わせ銃を渡されたオマールは……。

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その場で撃ち方を教わると、突然銃をラミに向けて発砲した。

感想

 「分離壁」はパレスチナ入植地であるヨルダン川西岸とイスラエルとの間に建てられた壁です。なぜ同じパレスチナ人に会うためにオマールが壁を越えていたのか判りませんでしたが、どうやら壁の一部は入植地を縦断するように建てられているようです。分離壁はイスラエルからパレスチナ人を分離しているだけでなくパレスチナ人同士も分離しているということなんですね。

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オマールは秘密警察に仲間を売る気はありませんでした。しかし、その仲間だと思っていた親友のアムジャドに裏切られたと知ったときのショックは大きかったはずです。そしてオマールはアムジャドに復讐するためにラミから銃を借りたと当然誰しもが思い込みます。
しかし、オマールの胸中にあったは別の結論でした。予想に反するラストを観た瞬間おそらく鑑賞者は戸惑うでしょう。しかしよく考えればオマールのとった行動は至極当然だったと気付くはずです。
オマールに裏切り者のレッテルを貼るようなことをしたのも、大切なナディアの生活を壊そうとしたのもラミだったからです。

 本作は”恋愛もの”というジャンルで括ってしまうのは惜しい作品です(誰も括っていないかもしれませんが)。確かにオマールのナディアへの一途な愛がメインテーマではありますが、それに留まらずパレスチナ人の青年が抱える様々な感情を描いた貴重な作品です。主演俳優のアダム・バクリを初め俳優陣のオリエンタルな顔立ちも魅力的な本作、特にオマールと同年代の若者にお勧めします。

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Basco