1963年 フランス
かつて若き実業家だったアラン・ルロワは、アルコール中毒の治療のため、パリにある療養所の豪華な個室で不自由なく、しかし空虚な時間を過ごしていた。主治医はアランにすでに治癒しているのだから退院してニューヨークの妻のところへ戻るべきだと勧告するが、アランは自分の病気はまだ治っていないと抵抗した。
彼は2年前に結婚していたが、女性に依存する性向は変わらなかった。ニューヨークから来た不倫相手から小切手を受け取ると、それを換金するために街に出た。かつて住まいがわりに使っていた馴染みのホテルを訪れると、従業員達に歓迎されるが、落ちぶれたアランに同情している本心が透けて見えた。知人に会いに行っても嘲笑されるか憐情されるばかりで、ますます自虐的感情に支配されていった。自分がすっかり取り残されて居場所がなくなってしまったことを思い知らされたアランは、再び酒に手を出してしまった。そして散らかった療養所の自室で朝を迎えたアランは、隠し持っていた拳銃を胸に当て、引き金を引くのだった。
自分という人間そのものを愛し、慕ってくれていると思っていた周囲の人間が、実はそうではなく、社会的ステータスが目当てだったことに気づき落ち込むことは、定年退職後の会社人間にはよくあることです。多くの人は、本当の意味で自分を愛するのは自分だけだということに傷つきながらも気付き受容するものですが、アランにはそれができなかった。彼の場合、若き日の成功経験と現状との激しい落差が追い討ちをかけたのでしょう。自分の存在価値を自ら否定してしまったアランの心には、彼のことを心配してくれる数少ない友人の声も響きませんでした。自分の存在価値を見失い、自殺を決意する人間の悲壮な内面を描いた名作です。なお、自殺が禁じられた選択であるかどうか、私にはまだ分かりません。