智力こそが人生の上昇気流 [風をつかまえた少年]

2019年 イギリス

あらすじ

2001年マラウイ。

 乾き切った不毛の土地で作物の栽培に取り組んでいたジョンが突然死んだ。ジョンの農地を継いだのは、意外にもジョンと志を共にし身骨を砕いていた弟のトライウェルではなく、ジョンの息子だった。

 トライウェルは豊かな人生を送るためには学問の力が必要だと思っていた。だから、僅かな蓄えを切り崩してでも息子のウイリアムを中学校に入れた。

 ウイリアムは村人のラジオの修理を請け負うくらい機械をいじるのが得意だった。希望を胸に入学式に出席したウイリアムは、しかし、厳しい現実を突きつけられた。学費を納期までに全額納められなければ、登校は認めないと学校主任から通告されたのだ。農作物の収穫が終わるまで、両親に学費を捻出する余裕がないことは分かっていた。

 ちょうどその頃、村人たちに、近隣のタバコ農園から土地を売ってほしいという話が持ち上がった。族長は木々が伐採されれば洪水を防げず壊滅的な被害をもたらすと自制を促したが、金に困っていた村人たちは次々と売却を決断した。その中には、ジョンから農地を継いだ彼の息子もいた。

 しかしトライウェルだけは決して諦めることなく、作物の栽培に挑戦し続けた。しかし運悪く、その年は激しい日照りで凶作だった。ウイリアムはなんとか父の力になりたかった。必要なのは水だった。井戸の水で畑を潤すことができれば問題は解決するはずだと考えたウイリアムは、廃品置き場に捨てられていたポンプを何とか作動できないか思案した。彼は学校の図書館に密かに潜り込み、そこで風力発電について独学した。そして、自転車のライトを点灯させるためのダイナモを利用すれば、風力発電機を自作できると確信した。しかし、そのダイナモをどうやって調達するかが問題だった。

 ウイリアムは父の自転車を使わせて欲しいと頼んだ。しかしトライウェルにとって自転車は貴重な移動手段だった。それをまだ小さい息子の戯言のために失うことなど考えられなかった。ウイリアムのアイディアを夢想としか思えなかったトライウェルは彼を厳しく叱り、くだらぬことにうつつを抜かさぬよう不毛な土地での農作業の手伝いを命じた。

 そんな頑固なトライウェルを変えたのは、どんな苦労があろうと頑固な彼にいつも従順に寄り添ってくれていた妻の「あなたと一緒になって何もかも失った。そのことは後悔していない。だけど、いつになったら失わなくて済むようになるの。」という涙ながらの訴えだった。その一言で深く自省したトライウェルは、まだ子供だと決めつけていた息子を信じることにした。

 父が提供した自転車を材料にして、ウイリアムの風力発電機の制作が始まった。村人たちにも手伝ってもらい、ついに完成した。風車が回り始め、ダイナモで発電した電気がバッテリに貯められていく。その先には井戸から水を吸い上げるポンプが接続されている。果たして、ウイリアムの風力発電機は機能するのだろうか。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
始めての発電機はうまく動いた。ポンプが動き井戸から水が上がってきた。
畑に巻いた種が芽吹いた頃、族長が息を引き取った。
学校の先生が新政府の代表と共に風車を視察にきた。村を離れ学校に行かないかと勧誘されるが、ウイリアムは断った。
そんな息子に父は「風車をお前の代わりだと思うから、学校へ行け」と背中を押した。

感想・コメント

実話ベースの話。マラウイという国がどこにあるのかさっぱりわからなりませんでしたが、調べてみると、アフリカ大陸のちょうど鼻骨のようなところに位置するようで、おまけに我が国との関係も結構あるようです。本作でも問題となっているように、灌漑農業がまだ整備されておらず、天水農業が中心であるために作物の栽培が気候に左右される状況にあるようで、我が国が灌漑技術の導入に協力しているとのことです。また、佐川急便やヤマト運輸も中古車両を物流のために提供しているので、彼の地ではお馴染みのマークを付けたトラックが走っているということです(外務省のサイト)。

 作品自体は、安定のハッピーエンドプロットで観やすいです。事態が悪化して最悪の状態になってから、主人公の活躍で面白いように全てが好転しハッピーエンドを迎えるという展開が好きな方には特にお勧めできます(思い返すと、私はこのパターンが大好きです)。鑑賞中は、使い古された自転車のダイナモやチェーン等の駆動部分が、風車の回転にどこまで耐えられるのだろうか等とつまらぬ疑問を抱いてしまいましたが、実話ということだし、大丈夫だったのだろうと深く考えないことにしました。

 自転車のダイナモを利用した風力発電機は、先進国の学生からすれば大したことではないかも知れません。しかし偉業と言えるかどうかは、いつどこでどのような状況下で成し遂げたのかによるものだと私は思います。限られた資源を工夫して活用し、家族のみならず村人たちを救ったのですから、ウイリアムが成し遂げたことは間違いなく偉業と言えます。

 そうそう、監督はトライウェル役のキウェテル・イジョフォー氏で、「それでも夜は明ける」の主演でもあります。こちらもお勧めです。

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Basco