2018年 アメリカ
1962年ニューヨーク。トニー・バレロンガは働いていたクラブが改装のため長期休業になり、収入源を失った。そんなトニーに医者が運転手を探していると声がかかった。指定された面接会場はカーネギーホールの2階だった。豪華な広間に現れたのはドクター・シャーリー。医者ではなく黒人の著名ピアニストだった。仕事の内容は南部ツアーの運転手としてシャーリーをスケジュールどおり会場まで連れて行くことと身の回りの世話をすることだった。待遇はよかったが、黒人差別者だったトニーはシャーリーに雇われることが我慢できず辞退した。
しかしトニーの腕っぷしと口上手を高く買っていたシャーリーは諦めなかった。トニーの妻を懐柔して仕事を引き受けさせた。実際のところトニーも家族を食べさせるために選択の余地はなかった。。
最初は黒人であるシャーリーなど自分より劣った存在だと決めて掛かっていたトニーだったが、ツアー先で白人富裕層の邸宅で見事な演奏を披露するシャーリーの姿を見て考えが変わった。しかしシャーリーのの四角四面な性格は庶民派のトニーにはどうにも水が合わなかった。ギクシャクしていた2人だったが、道中長い時間をともに過ごすうちに、徐々に打ち解けてきた。完璧だと思っていたシャーリーも悩み深き一人の人間だということがわかってきた。白人社会に生きる黒人のシャーリーは、「黒人的」で無いが故に白人からも黒人からも疏外され、孤独だった。
シャーリーが成功が約束された北部ツアーではなく、黒人差別が色濃い南部でのツアーを決行したのは、彼なりの黒人差別解消へのアピールだった。行く先々でシャーリーに向けられる露骨な黒人差別を目の当たりにしたトニーは怒りを感じた。その最たるものが「グリーンブック」と呼ばれる黒人用の宿泊施設のガイドブックだった。道中成り行きでトニーもグリーンブックに掲載されている黒人用宿泊施設で一夜を過ごすことになったが、そのとき初めてその粗末さを知ってショックを隠せなかった。
トニーたちはついに最後の公演地となるホテルへ辿り着いた。しかし、そこでもまたシャーリーに対して露骨な差別があった。コンサートの主役には到底ふさわしくない酷い対応についに怒りが爆発したトニーは、コンサート開始直前にシャーリーを車に乗せてホテルを後にした。つもりに積もった鬱憤を晴らし爽快な気分になった2人は、その勢いで街にあった黒人用のレストランに入った。シャーリーはバーテンに促されてピアノの演奏を始めた。彼が生み出す美しいピアノの音色はそこでも人々を魅了した。
長い旅を終え2人は帰路に着くが、あいにくの大雪に見舞われた。トニーはどこかに宿をとってやり過ごそうと提案するが、シャーリーはなぜか意固地にそれを拒んだ。彼はその旅で初めて運転席に座り、眠るトニーを乗せて延々と走り続けた。彼はトニーをクリスマスまでに家族の元へ戻してあげたかったのだ。シャーリーの献身により、トニーは無事家族と共にクリスマスを過ごすことができた。別れ際、トニーに家族に会っていくよう誘われたが、シャーリーは自分の家に帰る、と別れを告げるのだった。
冒頭のトニーのクラブでのエピソードはややわかりにくかったですが、それ以外は全体的にストレスなく鑑賞できました。
あらすじでも触れましたが、題名の「グリーンブック」は当時発行されていた有色人種向けの宿泊施設ガイドブックのことです。白人富裕層を相手に演奏し、晩餐会に招待された後に眠るのはいつもみすぼらしい有色人種向けの宿泊施設というのは、誇り高きシャーリーにとって屈辱だったことは想像に難くありません。黒人に限らず有色人種というのは多少の差はあれ差別される側ですので、私なんかも他人事のように言える立場ではありませんが。
本作は人種差別の悲壮感を全面に出した作品ではなく、結構早いタイミングで2人がその問題を乗り越え、人間同士として理解を深めていくという展開になっています。ですから重いテーマでありながらも悲哀や憤怒といったマイナスの感情を抱くことなく、爽快な気持ちで鑑賞できる点も好感できます。
また、あらすじでは省きましたが、トニーが妻に手紙を書いているのを見て、あまりの内容の酷さに見かねたシャーリーが、トニーの代わりに手紙の内容を考えてやることにします。そのあまりに詩的な内容にトニーの妻が大感激するというくだりが、少々コミカルで楽しめました。
先入観(バイアス)から逃れることができないというのは人間の宿命です。故に常に相手に対して「~らしさ」を意識、無意識に要求しています。全ての差別はこの「~らしさ」が出発点だと思いますが、それを排除するには強い理性が必要です。しかし、大抵の人はそれほどの理性は持ち合わせていないものです。この辺のメカニズムはダニエル・カーネマン博士の「ファストアンドスロー」なんかを読むとなるほどと思います。まあそういう私も例外なくバイアスの奴隷なわけですが。
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