映画のような現実ではなく、現実のような映画 [エッセンシャル・キリング]

 2010年 ポーランド

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あらすじ

 アフガニスタンの岩場で捜索活動している米軍3人を、テロリストの男がロケット砲で殺害した。逃亡を図るが、あえなく駆けつけた米軍に捕らえられた。

 男は収容所で拷問を受けた後、他の捕虜とともに移送された。場所は分からないが、一面が雪景色の厳寒の地だった。山中で護送車両がスリップ事故を起こした隙に男は逃げ出した。

 男は逃亡の道すがら、たまたま遭遇した人を躊躇なく殺害し車や衣類を奪った。やがて夜が明けると、男は空からはヘリ、陸上からは軍用犬を連れた捜索隊に追われた。

 男は途中捕まりそうになりながらも、運にも恵まれ何とか逃れ続けた。しかし無傷というわけにいかなかった。狩猟用の罠に足を挟み、崖から転落し満身創痍だった。

 何よりも耐え難いのが飢えだった。冬山には食べ物がなく、男は蟻塚のアリ、樹皮そして名も知らぬ木の実で飢えをしのごうとし、仕舞いには道端で赤ん坊に母乳を与えている女性の乳首にむしゃぶりついた。

 男は行くべき先も定まらないまま、ただひたすら雪山の中を進み続けた。

 やがて男は民家にたどり着き、そのまま力尽きた。それに気づいた住人の女が男を介抱した。男の服を脱がすと腹部に大怪我を負っていた。女は傷の手当をし食事と衣類を与えた。夫がやがて帰ってくるので男を置いておくわけにもいかず、一通りの世話を終えると女は馬を与えて男を送り出した。

 馬上で徐々に力を失っていく男。やがて大量の吐血が白馬の毛を濡らした。男の運命は……。

クリックするとラストが表示されます(ネタバレ注意!)
見渡す限り一面の雪原で馬が草を食んでいた。その背中に男の姿はなかった。

感想

 主演はヴィンセント・ギャロ。ノーセリフでフィニッシュです(叫んだりうめいたりはします)。

 一応あらすじは書きましたが、一言でいえば、「男が雪山をひたすら逃亡する」だけの映画です。

 砂漠地帯から厳寒の山中に放り出された男が、希望もなく行く宛もなく、ただひたすらに逃亡し続けます。どんな幸運に恵まれたとしても救われる可能性は無い、まさしく絶望的な状況に思えますが、その中にあっても一縷の望みを信じるかのように男は諦めません。「絶望」とはその一縷の望みが蜃気楼のような幻であることに気づいた時に初めて感じるものであり、生存本能を断ち切る死神の大鎌如き残酷なものなのかも知れません。

(ここからは少しディスります。あくまでも個人的な感想ですので、ご容赦ください。)

 ……鑑賞側が最大限想像力を働かせると、そういった感想になるのですが、シニカルな見方をすると、「灼熱の砂漠から男が一転厳寒の地に放り出されてひたすら歩くわけ。まっさらな雪原を一人の男が地平線目指して突き進む感じ、絵になると思わない?」みたいなノリだけで制作したのではないかとも思える位、作品のテーマや訴求点が見えない作品です。

 解説を見ると、主人公の名前はムハンマドというらしいですが、作中名前が出てくることは(多分)ありません。それなら「男」で通せばいいのに設定も雑です。

 落書きにしか見えない現代芸術を「これのどこが芸術なの?」と素直に言える人は、ベア・グリルスのサバイバル番組の方がずっと楽しめると思います。素直に認められない人は、本作の意味をいつまでも探求し続けそうです。それにしても、ベア・グリルスの番組のカメラマンはすごいと思いませんか?

 随分脱線しましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

Basco