1998年 アメリカ
ビリー・ブラウンは懲役5年の刑期を終え出所した。
街に出て実家に電話をすると、母親から嫁を連れてくるよう執拗に催促された。しかし、ビリーは結婚していなかった。刑務所に入る前に、政府の仕事で妻と一緒に遠い地に行くことになったのでしばらく会えないと嘘をついていたのだ。困ったビリーは衝動的に偶然そこを通りがかったレイラを拉致し、彼女の車で実家に向かうことにした。道中、ビリーはレイラに刑務所に入る前に両親に結婚していると嘘をついたので、ウェンディという名前ということにして妻のふりをして欲しい、とにかくオレを立てろと命じた。隙だらけだったので、レイラは逃げようと思えば逃げることができたのに、何故かビリーの指示に素直に従い車を走らせた。
実家に着くと、ウェンディことレイラは器用にビリーの妻を演じた。ビリーの父親は癇癪持ちの元歌手、母親は根っからの地元アメフトチームのバッファロー・ビルズファンだった。そして2人共ビリーにはあまり関心がなく、久しぶりの帰省なのに特別歓迎されている風でもなかった。
微妙な雰囲気で夕食を終え、ビリーとレイラは実家を去った。ビリーはレイラに対して高圧的な態度をとるが、レイラの態度はウブな坊やを相手にしているときのそれだった。
ビリーが刑務所に入ったのは他人の罪を被ったためだった。そして、なぜそうしなければならなくなったのかといえば、スーパーボウルの試合でバッファローに大金を賭けて負けて借金を作ったからだった。そのバッファローが負けた原因はスコット・ウッドがフィールドゴールを外したからだった。
ビリーは出所したら自分の人生を狂わせたウッドを殺して、その後自殺すると心に誓っていた。ついにその計画を実行に移すことにした。
ウッドはすでに引退し、ストリップクラブを経営していた。店でウッドを殺害しようと決めたビリーは彼が店に顔を出す深夜までレイラとモーテルで時間を潰すことにした。そして、深夜2時。ビリーは意を決して店に向かった。別れ際、レイラから愛していると告白されるが、ビリーの決意は揺るがなかった。
ビリーは店で女を侍らせて上機嫌で酒を飲んでいるウッドと対峙すると、懐から銃を取り出しウッドに向けた……。
主人公のビリーは、虚勢を張っているけれど、シャイでウブで実は真面目な性格で親思い、ついでに恋愛経験もなく女性に対して奥手という、かなり難易度高めの不器用な青年です。そんなビリーが、レイラの包容力で解されていくというストーリーです。レイラの「包容力」と書きましたが、彼女は彼女で単に結構ぶっ飛んだ性格なのかもしれません。いや、多分そうでしょう。
この映画の主人公役がヴィンセント・ギャロではなく、不細工な人だったら、かなりキモい感じになると思いますが、イケメンだとこういう設定も成立してしまいます。羨ましい限りですが、人によってはギャロの「イケていない男もオレが演じるとサマになるんだぜ」というナルシシズムを、ちょっと不愉快に感じるかも知れません。私自身は、ナルシシズムはハンサムの特権だと思っているので、全く気になりませんが。
ちょっと古びた画像や映像効果等にもヴィンセント・ギャロの美意識を感じます。ハイセンスながら観客を突き放すわけではなく、「こういう感じいいでしょ」という距離感が楽しい作品です。彼の監督デビュー作にして代表作ですね。この後、ブラウン・バニーという映画史上に残る問題作を生み出すことになろうとは……。
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こんばんは。
いい映画でしたね。ちょっと地味なラブストーリーでしたが、案外これがオシャレなのかもしれません。
殺伐とした風景と生乾きのユーモア感覚がジャームッシュ監督作品を思わせました。
コメントありがとうございます。
実はレイラの神経の図太さが中々のものですよね。誘拐されたのに、動揺するどころか夫婦ごっこを楽しんでいましたから。もし二人が一緒になったら確実にレイラが主導権を握るでしょうね。頑張れビリー!という感じです。